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二十四節気の白露。 9月初旬。
アメマスが産卵のため上流のスポーニング地帯目ざしていっせいに遡上する。 KAMUYではまさにこのタイミングを狙って長大な道東のメインストリームをドリフトボートで短期攻略する。 広範囲にわたる本流というフィールドの中から限られた時間の中で確実に活性の高い遡上群コアを見つけ出し、狙い撃ってゆくというスタイルである。 その日どの区間のどの場所にどのくらいの規模の遡上群が存在しているかをわずか1日のうちに完全把握し、その日のうちに最もホットな場所を再度攻略するという極めて合理的な方法論に基づいて組織的な釣りが行われるというわけだ。
北海道の9月という時期は気候的にもまだ温暖で暑くも寒くもなく、日照時間も長いので釣りは非常にやりやすい。
アメマスというと何かといえば3月、4月だとか11月だ12月だと寒冷な時期ばかり釣りをイメージする人が多いかもしれないが、本流筋をまとまって群れが移動する9月はどうなのかというと、群れさえ見つけることができればかなり釣りやすい状態にある。
おそらくは徒歩でしか釣りをしない人にとって産卵に向かう移動の時期に当たる9月は所在の見当がつけにくいのであるが、、 数十キロの区間をわずかな時間で全部釣り切ってしまうようなドリフトにはまさにうってつけの時期ということだ。
北海道の夏季の代表的な野花。
エゾスカシユリ。
9月初旬でもそこかしこに群落を見ることができる。
一般的な開花期が6〜9月なのでこれは本流アメマスの遡上群が産卵場所へと向かうタイミングであることを意味してもいる。
鱗茎がユリ根として食べられる。
川を下っているとそこかしこで普通に見られる光景。
タンチョウはかつては広く本州にも生息していたが現在ではここ道東に限って見られる大型の鳥。最近では保護の甲斐あって至る所で出会える。
ちょっと遠慮して横を通過させてもらう。
「ごめんね邪魔して」
ツル:「ええよー 気にせんでー」
「最近はお仲間も増えてきてよかったですねー」
ツル:「住宅難で大変やねん。 」
広い。 とにかく広い。
地平線の彼方まで大地は広がっていて、川は原野を大きく蛇行して流れている。
道東という地域で釣りをする場合にいちばん問題になるのがこの「広さ」なのである。 本州の渓流のようにこの時期にこの場所でやれば釣れるなどという場所はない。 どちらかといえば、「せいぜいやれてもこの場所だけしかない。」 …というのが地元の釣り人の感覚である。
自分の言ってる意味がわからないって人は… 実際にここきて徒歩で釣りをしてみればよい。 グレートジャーニーとなる。
…何箇所か入りやすそうな場所を見つけて釣りをしてみたが… よくわからなかった。 となる。 普通は。
「木を見て森を見ず」 というのがあるが、、こういうフィールドでは目先の魚やポイントの良し悪し云々よりも、流域全体を見るマクロ視点での戦術が必要になる。森全体を見て良い木が生えてるとこを予測するのだ。
数十キロメートルの区間内にアメマスの「ホットな魚群コア」がいったいその時点で ”どこに” 位置するのかをまずは見極めなくてはよい釣りはできないのである。 その日、どの位置に、どの規模の群れが、何箇所に?、存在しているのか…
結論から言っちゃうと、つまりのところ「全部釣ってみる」しかない。
…のだ。それも限られた時間の中でである。方法は一つしかない。 ドリフトボート… ってなるしかないのである。
9月のある日、澄んだ水深のあるプールの開きで出会った大型の遡上群。 50〜70cmの個体が累々と行列をなして泳ぐ様は釣り人にとっての憧れの光景だろう。 時期的には台風による周期的な増水を繰り返す時期であり魚群の位置は常に変化する。 驚くべきことにこの後日同じ場所を通った時には魚群どころか稚魚の魚影すら1尾も見えない、「もぬけの殻」状態だった。
9月の森はもうすでに少しだけ紅葉が始まっている。
この日は抜けるような青空の秋晴れ。 前回の台風増水から時間を経ているため水は少なく、澄んでいて川の底までよく見える。
青い空。 萌黄色の紅葉はじめの森。
綺麗。
KAMUYオブザーバー達によって広大なフィールドのチェックを行う。 テンポの速いルアー中心の構成で総延長200km以上にも及ぶエリアをチームを分けてごく短い時間で全て釣りきってもらう。
20代の若者中心の彼らのパッションと底なしのエネルギーにはいつも感服させられる。
燃費も悪いが出力もデカい… アメ車みたいな人たちw
”オブザーバー”とは元来ビジネスシーン用語で「決定権を持たない傍聴人」の意味。 KAMU Yでは特にドリフトの釣り手やリサーチ要員として携わってくれている。 未来のプロガイドの卵でもある彼ら。KAMUYの根底はこの人たちが支えているといっても過言じゃない。
彼らの持ち帰る”情報”が翌日のゲストの釣りにそのままフィードバックされる。
魚群密度の濃い地帯にボートが差し掛かるとたちまちのうちにヒット祭りとなる。
興味深いことに一見ほとんど変わらないように見える川でも魚がいる場所といない場所の違いがあまりにもはっきりしているということ。 数合いバタバタとアホみたいに忙しくなったと思いきや、またしばらくの間「チーン…」 と静かになってしまう。 しかも日によってその場所が変わってしまう…
そういうものなんだね。
良いサイズがかかるたびにボート上では歓声が沸き起こる。ある人いわく、
このルアーをああやって、こうして、こうやったからいいんだとか、ナントカコントカ。
ウンウン。ひとつのルアーでも動かし方を変えていろいろ試してみるのはいいよね。ウンウン。
またある人いわく、
ルアーを引くスピードがどうとか、タナがどうとかウンヌンカンヌン。
ウンウン。ルアーを引くタナを意識してやるのはいいよね。ウンウン。
またまたある人もいわく、
君のやり方は違くて、ボクのやり方はこうでこうだから… いいや、アーデモナイコーデモナイ。
ウンウン。自分と他人を比べてみるのは自分を伸ばすチャンスだよね。ウンウン。
結局のとこなんでも釣れてる。
いちおうガイドの自分の意見も書いておこうか… 僕がいわく、
「サカナいるとこ行ったら釣れるんだよ。 キラキラしたハリついたやつで」
(オブザーバー一同)
「…」
「…」
「…でさぁー、あのルアーを使うにはこのメーカーのやっぱりあの素材のロッドがさぁ… 」
「あ、それわかるー。 そうだよねー」
みんな若いのにもうどっぷりと玩物喪志なのねw
いいよそれで。
ウンウン。
ときどきドカドカ、ときどきシーンとなることを定期的に繰り返しながら、日が傾くまで延々と川を下ってゆく…
ある娘いわく、
「ねーねー、知ってる?? ポイフル食べると釣れるんだよ! 美味しいと釣れる。」 (マジか…!?)
思えば、無類の釣り好きにして作家の故人、開高健氏は自身の釣りエッセイの中で、釣れない時の釣り師の心境なるものを実に面白おかしく皮肉たっぷり且つ見事なまでに表現していたが… その作は 数百どころか数千、数万文字にも渡る言葉の奔流でもあった。 激動の昭和の真っ只中を釣りをこよなく愛して生きた氏の精緻な表現とはあまりにも正反対に現代、令和の釣り手はなんと(不謹慎にも??) お菓子ひとつと僅か一節の言葉のみでさらりとやってのける…
…時代というやつである。ウンウン。
…食べると釣れる。
60cmにちょっととどかないくらいのアメマスを手にニンマリ不敵に笑うKAMUYオブザーバーD君。このくらいまでのサイズは大体ふつうによく釣れる。
「もっと大きいのもいるんですよね? どうやったらそういうのが釣れますかね??」
やっぱり今日も聞かれるw
ガイド:「いるよ。 でも数が少ないから確率だよ。 必ず大きい魚を釣るにはやはり、確率の母数を上げていくしかない。 あと100尾釣ればきっとその中に70cm超えが入るだろうし、80cm超えを必ず釣ろうと思うならあと1000尾釣れば入ってくるだろねーw」
オブザーバー:「今日1日でオレ一人で30尾くらい釣ったからあと2日これと同じことやれば70cm超は釣れるんですね! 頑張ります!」
ガイド:「そんなもんだと思う。 でもわからんよ。 次に釣れる奴がそれかもしれないw」
オブザーバー:「とにかく頑張って釣ります!」
どこの国でもいつの時代でも若者は素直ですね。
おなじボート上のある人にはものすごく釣れるのに、もう一人の方にはあまり釣れない… というのはよくある。 それぞれが思い思いにボートから広範囲にキャスティングしているのでポイントの条件としては公平である。 こういう場合ガイドはルアーを通す深さ… ”縦のレンジ”を変えてください。 と必ず指示する。
…というと多くの人が深く沈めれば釣れると勝手に想像するだろうが、この日は違った。
表層を通してこないとヒットしなかったのである。
先入観に気をつけよう。
表層引きで特段の工夫もなく釣れるような日は数も型も伸びる傾向にある。
雌雄による差は当然あるが、50cmを超えるあたりからその顔つきが少しづつ変わってくる。 可愛らしいトラウトの顔から徐々にサケ科の魚特有の剽悍な顔つきになってくる。
クルセイダー5gの表層引きで敢然とチェイス。 ボートへのピックアップ直前でリーリングを止め、スプーンを沈めた瞬間にバイトした70cm超。 いわゆるナナマル超級。 …しかも太い… アメマスもこのくらいになると別物。 マルチピースのウルトラライトアクションのパックロッドでのやり取りでは慎重を期してボートを岸にあげ、浅瀬に引き上げる必要があった。
ゲストとしてはやはり当然このくらいのサカナを目標にしてくることと思う。 スムーズなキャスティング技術とじゅうぶんな日程(チャンスの数)があれば自ずとこのクラスへの道は拓けてる。
道東のこの期間の一つの目安としては最低3日間のスケジュールを取っておくとバッチリ。 9月という季節としては天候による河川コンディションの変化にも3日間あればギリギリで対応できる。 (…て言いながら3日間全部タフコンだったらゴメンなさいw) この時期の代替Bプランはこの後に後述してあるので見ておいて損はない。
この日はまた逆。
この前日までとはうってかわって表層を通しても反応はなしのつぶて。
低いレンジを通してくることによってやっとバイトを取ることができるという感じ。
その日その時にどのレンジを意識的に通してくるのがよい結果に繋がるかは極論その日に実際に釣りをはじめてみないとわからないとこがある。
KAMUYのガイドはルアーを変えることによってアングラー側が特に意識しなくてもレンジが相対的に変わるような方法を勧めてる。
低いレンジを通すことでしか反応を得られないような日は総じて渋いことが多い。 小さなアタリは多いもののなかなかフッキングに至らない… かなり重めのスプーンに代え、シングルのスイミングフックをタンデムにしてやっとご対面のパターン。 特にこのパターンではスプーンの根掛かりによるロストが相当数あるのでルアーの数は十分に用意しておこう。
スプーンを通す深さ… ”縦のレンジ”をコントロールするいちばん実践合理的な方法をここで紹介しておく。
結論からいくと、、
「表面積が等しいスプーンで重量だけ変える」
とよい。 こうすることによってアングラー側が実際にレンジを調整する際に着水後の間の取り方やルアーを引くスピードを「いちいち変えることなく」 軽いルアーは上層を、重いルアーはより下層を無意識のうちに引き分けることができる。この「無意識で」ていうとこがポイント。アングラーは自身の動き方… 釣りのリズムをまったく変えることなくスプーンのウェイトを変えるだけで通る「レンジ」だけが変わる。
この効果はいつも相対的に現れるが、ここで大事なことは何よりも「同じ表面積のスプーンでなくてはならない」 …つまりが同一メーカーの同一の”金型”によって制作されたスプーンでなおかつ”鋼板の厚みの違いによって”ウェイトに違いを出しているシリーズでなくては成立しないという点が重要なとこ。
KAMUYガイドのドリフト用スプーンボックスの一例。 一定速度でもレンジを引き分けることが容易にできるように同一シリーズ・同一サイズのシェイプで3パターンのウェイトバリエーションを揃えている。 いちばん上がDAIWAクルセイダー5g。 中段は同7g。 下段は檄アツ10gとなる。
スプーンを世に出すメーカーは数多かれど… 唯一 1社だけこの点を理解して製品を作っているメーカーがある。 DAIWAだ。
写真はダイワの”クルセイダー” …なんということはない、オーソドックスなトラウト用のスプーンだが、上から順にウェイトが5グラム、7グラム、10グラムと鋼板の厚みによるウェイトの違いを持たせている。
これら3点のそれぞれの表面積はまったく同じ… つまりは水中で受ける水の抵抗値が理論上まったく同じということになる。 厚みによる重量の違いはいちばん上の5グラムといちばん下の檄アツ10グラムでは2倍もの質量の違いが生じるが、 この2つをまったく同じスピードで引いて比べたならルアーの通ってくる深さはそれぞれどうなるか… 考えてみればわかると思う。
湖のトラウトやサーモン系、イトウなどで馴染みの深いチヌークSシリーズでも同様に同一シェイプでの鋼板の厚みの違いによるウェイト展開がなされている。
たとえば湿原河川のイトウの場合では14gで1m~1.5mラインのボトム到達。 17gで2m近辺をカバーしている。 25gは流速の推しの強いシチュエーションや3m以深などの特殊な状況に合わせることが可能だ。
いずれの場合もリーリングスピードに代表されるアングラー側の入力スピードやタイミングに大幅な変化はつけない。
これを書いている自分の記憶に間違いがなければダイワ社がこうしたコンセプト・スプーンを「売りどころ」として製品化したのはこの本流サクラマス用として発売された”S.C.Masou" が最初ではなかったかと思う。 同シリーズは本流の同じポイントでアングラー側の入力とスプーン本体のシェイプを変えずにウェイトに違いを持たせて「水深を引き分ける」 という発想だったが、これは何よりも現場のアングラー達の「こういう製品が欲しい」という強い要望を受けて作ったという経緯があったらしい。
同シリーズは残念ながら令和4年現在は絶版となっているが、チヌークとはまた違う深いカップを持った水中での姿勢安定の良いデザインだった。
DAIWAのスプーンは同一シェイプで厚みを変えることによって重量を変えている。 レンジコントロールという観点においてシリーズとしてのコンセプトが明確な ”たしかな根拠のある製品” とも言えるのではないだろうか。
これは単なる推測だが、、おそらくこういった「実戦重視」的な製品開発をすること自体はそんなに難しくないはずなのだが、ではなぜに他メーカーはこのような合理的な「良いモノ・良いシリーズ」 を売り出し、かつそれを維持・供給し続けようとしないのだろうか?
…ナゾである。
ただ以前に国内最大手の関西の釣り具卸売りの営業マンに聞いたことがあるのは、やはり「良いモノ」を全国に幅広く、末長く安定的に、かつ安価に提供し続けることのできるのは「大企業」でなくては不可能だからではないか、とのことであった。 メーカーの資本力の違いである。 日本国内のスプーン市場は既に飽和状態にあり、大企業だけがその潤沢な資金力を生かして良い製品の開発と維持・供給費を捻出できる。
新規参入のルアーメーカーが何故ゆえかミノーばかり推してスプーンに注力しない理由がこれで少しわかってきたと思う。 今の成熟した国内市場でもはやスプーンを売ってもメーカーの”儲け”が少ないからなのだ。
つまりのところ裏を返せばそれだけにこの「スプーン」というルアーがルアーとしての完成度が高いという事実への裏付けでもあるのだ、ということでまとめておく。
KAMUY道東ロッジにいちばん近いのは知床半島方面への釣行でもおなじみの女満別空港。 中標津と釧路空港がそれに続くが女満別よりもちょっとだけ遠くなる。
ゲストの到着に合わせてKAMUYガイドがお迎え。
空港到着後すぐに釣りをしたいという人は多い。 この日は時間の制約から大掛かりなダウンリバーはできないのでゲストの希望でもあった小渓流の釣りに案内する。
すぐにニジマスが反応してくれた。
こういう時のために短い時間ですぐに結果が出るようなちょこまかとしたポイントもガイドはかなりの数を用意している。 1箇所ごとのポイント規模が小さいのでずっとその場で釣り続けることはできないが、複数箇所をセットでまとめて回るとそれなりの釣りになるもの。
というか… ガイドではない一般の人にとっての普通の釣り方がこれ。
そして”魔”のガイドフィッシングあるある…
さぁ今日から釣り釣り! という初日に限って。 前夜からの大雨… ザ・ハイウォーター。 リアルな残念感をあえて伝えたいので包み隠さずにこうして写真も載せておくことにする。
こうなる場合はBプランに変更するかどうかを事前にゲストに確認しておくことにしている。
釣れなくても最初の予定通りの釣りをやりたいっていう人だってやっぱりいるから、それはゲストに合わせている。
ちなみにこの時のゲストはBプランへの変更に決めたが、オブザーバーの別チームがハイウォーターにドリフトのゴリ押しで入っていった。
ちなみに結果はなんと… パーフェクトボーズであったらしい。 丸一日ドリフトでである…
オブザーバー:「昨日まであんなにアメマスいっぱい釣れたのに…」
そんな時もあるよね。ウンウン。
日程はケチらずに多めにとるのが吉。
こちらはガイド&ゲストの本隊。
前夜から数十ミリのまとまった降水だったらしく、小渓流も含めてどこもお手上げ状態。 時は9月、こんな時の選択肢としてはなんといっても「サーモン系」が鉄板である。 ゲストは最初あまり気が乗らないようだったが、ガイドがフライフィッシングでやる。 といったあたりから乗り気になってきたらしい。
目的の海岸まで森の小道を歩いて向かう…
30分ほど歩いて静かな「とっておきの」海岸に飛び出す。
空はどんより、空気はひんやり。 9月の雨はその都度少しづつ冷たい季節へと誘導してゆく。
ゲストはあたりをキョロキョロ
ゲスト:「どこに魚いるんですか??」
ガイド:「あそこ。 あのちょっとだけ浅くなってるとこ。 水面よく見てみて…」
ゲスト:「あれって海藻じゃないんですか…? 」
ガイド:「ぜんぶ魚ですよw」
ゲスト:「マジで?!」
ガイド:「ど真ん中にいきなりたたき込むと最初の1匹しか釣れないので気をつけてください… 釣果を伸ばすコツは群れにストレスを与えずに周辺から静かに間引くようにして釣っていくイメージです。オフショアの青物キャスティングのナブラ撃ちの時と同じです。 潮上に入れて潮に流してフライを入れます… 」
ガイドは重い750グレインのヘッドをはじめは少し短めに、、 2投目以降からはヒトヒロ伸ばしてさらにその奥、というように繊細に探っていく… フライは引っ張らず、アクションさせず、ただ水になじませるようにフワフワと漂わせる。
コツン… とあたり。 水面のラインを見てまだ合わせずに… フローティングのティップとヘッドの1/4くらいが水面下に没したあたりでガイドはゆっくりとラインの遊びをとってからツーハンドロッドのバットグリップを腰に当ててロッドを水平に持ち、体全体を横にひねるように「グイッ!!」 とゆっくりだが確実にパワーの乗ったアワセを決める。
どしん、とサーモン系特有の重みがロッドに伝わって、10番ロッドが真ん中あたりから弓なりに曲がるが、そのまま一切緩めることなく強引にランディング。
少し小ぶりなオスのカラフトマス。
9月らしく成熟の進んだ個体だった。
ガイドに続いてゲストもフライをキャスティングしてみるが、ただ残念なことに魚のいるところに届かないよ様子。
ゲスト:「ちょっと自分の実力では無理みたいです… あきらめます…」
ガイド:「地元民と同じやり方でやってみますか? ちゃんと持ってきましたよ。」
ガイドはバックパックから9フィート6インチのミディアムライトアクションのスピニングロッドとリールを取り出すと手早く組み立ててゲストにそれを渡す。 18グラムのピンク色のチヌークを取り付けてやらせてあげると、さすがに魚に届いたようだった。
1投、2投、3投目で魚の群れのちょっと手前に落ちたルアーが底まで沈みきらないうちに
…ゲストが何やら感じ取ったらしくおもむろにロッドを立てると、ロッドの先が少し動いたようにガイドには見えた。
「アワセ入れてください」
あわててゲストがあわせると、ちゃんとかかった。
ゲストは夢中で魚と格闘しているようだが、うまくやっている。
「カラフトマスですか?! はじめてなんです! うれしい!!」
無事にランディングに成功したそれは先ほどガイドが釣ったものよりも一回り大きな立派なオスのカラフトマスだった。
そのあとしばらくゲストがルアーを投げ続けるも、どうやらルアーだとやはりすぐにスレて群れがスプークしてしまったらしく、釣れなくなった。
ガイド:「もう少しやってみますか?」
ゲスト:「いや、今日はもう初めてのカラフトを釣ったのでお腹いっぱいです。ありがとうございました。」
ガイド:「じゃあ今日は早めに戻ってオブザーバーの子達と一緒にロッジでこの釣ったカラフトマスで飲みましょう! バターたっぷりかけて鉄板で丸ごと焼くといいんですよー。」
帰路の途中で食事を買い込んで戻ると満点の星空が迎えてくれる。
ゲストが近くの温泉に行っている間にカラフトマスを調理する。
性成熟のすすんだこのくらいの時期の身はもうだいぶ色と味気が落ちている。 地元の人はもうこのくらいになると誰もカラフトマスを釣ろうとしなくなるので、釣り場はどこも空いているというわけだ。 ただこのくらいでも少し強めのハーブやらで味付けしてやると十分に食べられる。
ガイド:「予定のドリフトボートができなくなっちゃって今回はちょっと残念でしたね」
ゲスト:「いやそれは天気だから仕方ない。 でもこうして思いもよらず初めての魚を釣ることができてよかったです。 」
ガイド:「今時の言い方だと… よもや、よもや ってやつですねw」
和やかに夜は更けてゆく。
9月初旬は性成熟したカラフトマスの接岸時期でもあることから、この地域では増水に弱いドリフトボートができなかった場合のサブプランとして成立する時期的な「強み」がある。 初めからカラフトマスを主軸に据えて釣行計画を組むこともまた可能だが、やはり同じようにカラフトも年やタイミングによっては群れが希薄で思うように釣果が伸びないこともあるので、その場合のバックアッププランとしてやはり北海道を代表するこの本流アメマスの釣りはこの地域では良い形で相補的であり、9月初旬はKAMUYガイドとしてはオススメのタイミング。
詳しく計画を練りたい人はプライベートガイド をとおしてガイドに相談しましょ。
KAMUYの道東地域での活動拠点となるログハウスを紹介しておく。
2021年からKAMUY道東が本格的に始動するきっかけとなった。 周辺は牧場と山林。少し歩けば2〜3分で湖畔に出るというなんとも釣りの拠点としては申し分のない立地。
2022年も前年から引き続き、会員ゲストに解放する。
1Fはリビングとキッチン。 トイレとバスルームがある。 写真は2Fのゲスト用の1室。 2Fにある4室のうち2室をゲスト用として使ってもらっている。
タイイングツールやマテリアルもひととおりそろってる。
翌日のためのフライを1つ2つ前夜に作って出かけるのはロッジステイの魅力。
薪ストーブが家全体を温める。 床はもちろんのこと、壁や天井からほんわりと包み込まれるような優しいぬくもりを感じるのがこうしたストーブのいいところ。
9月とはいえ道東は夜になると暖房なしでは少し辛い。
外から帰ってきてまず最初にすることはストーブに薪をくべること。 朝起きた時も同じ。
ここを訪れるゲストには素朴な北国の生活をそのまま体験してもらうことができる。
朝はオート麦とドライフルーツのKAMUYオリジナルのミューズリーにパーコレーターで淹れたてのコーヒーを楽しむ。
アウトドア感いっぱいの食事もロッジングライフの楽しみのひとつ。 この他にもテラスでバーベキューをしたり釣ってきた魚のロッジ料理など、時間さえうまく使えばステイの楽しみ方の幅はどんどん広がるだろう。 朝から晩まで釣りだけで過ごしてしまうのははっきり言ってもったいない。朝から小鳥たちの歌を聞き、ガイドや仲間たちと語り合い、食事を楽しんだり、テラスで本を読んだりビールを飲んだり… そういうフィッシングウィークの過ごし方こそが本場の人たちのスタイルでもあった。 趣味や休暇というのは本来なら日常生活や仕事の疲れた体を癒し、心を豊かにするためのもの… ここはそんな過ごし方を目的にするのがいちばんあっている。
KAMUYガイドのおすすめ食材はこれ! ウォータークレス。 野生のクレソンである。 ロッジ近くの渓流にたくさん自生している。ここはアメマスやサクラマスたちの産卵も行われる場所でいわゆる、スポーニングリバー。 釣りのついでに収穫して持ち帰り、サラダにするとすごーくいい。 シャキシャキした歯ごたえのある食感とピリッと辛い独特な風味がクセになる。 カラダの中から健康にしてくれるような幸せメニュー。
ワイルド・クレソンとイエロービーツ のシャキシャキサラダ。
KAMUYガイドのお気に入り手作り。 クレソンと同じくビーツにも土臭いような独特の風味があってフィッシングロッジというシチュエーションで食べるとこれがまたウマい。 北海道の深い森の精気を体に取り込むようにも感じる。 イエロービーツが手に入らないときはオレンジやパプリカなんかを加えてもいい。 シンプルにヒマラヤ岩塩を削って混ぜたエクストラバージンオイルをかけていただく… ワインでもビールでもなんでもよく合う。